「資格の横展開」と、機能不全のリーダーシップ
ビル管理業界への潜り込みも、一筋縄ではいきませんでした。なにしろ、リーマンショック後の就職難です。 けして待遇が良い業界ではありません。それでも当時は一人の非正規募集に対して、5人から6人が殺到するような超買い手市場。
その中で、30代半ばという若さと、訓練校で揃えた資格が功を奏し、なんとか採用を勝ち取りました。
この業界の良いところの一つは、給料を上げたければ、資格を取ればいい。それを使うかどうかは二の次で、まずは形にする。私は入社後、猛烈な勢いで資格を取りまくりました。
消防設備士なども含め、科目免除をフル活用して網羅していく。工学の基礎さえあれば、設備系の資格は面白いように繋がります。この「知識を体系化する」快感は、大工仕事で感じた「上達の喜び」と同じ種類のものでした。
しかし、現場の人間関係はそう合理的ではありませんでした。 当時の現場所長が、お世辞にも優秀とは言えなかったんです。機械のオペレーターとしては普通で真面目に長年勤務されたという点は、評価すべき人でした。
ですが、元営業職だという割には口下手で、客先との折衝も見ていられないほど下手くそ。自分が電話をかけておきながら、何を伝えたいのかも要領を得ない。客を激怒させることもシバシバ。
本来、所長の仕事は、現場のトラブルを対外的にとりまとめ、収束させることです。技術的な運転は部下に任せればいい。しかしその一番肝心なことができない。 結局、入社したばかりの私のところに、客先からの相談やトラブルの対応が回ってくるようになりました。
「規約では所長を通せ」となっていても、それでは仕事が前に進まない。 不条理だとは思いつつも、私は現場の泥臭い調整を肩代わりすることになりました。 でも、この「技術」と「交渉」の両輪を回した経験が、私を単なるオペレーターではない、真の『設備管理のプロ』へと押し上げてくれたのも事実です。
そんな日常の中、私は着実に資格の山を築いていきました。 実務で使う機会は乏しくとも着実に、知識経験は蓄えられていく感覚はありました。
